多くの課題とともに
HANDSプログラムオフィサー:定森 徹
私がエイズにかかわり始めたのは1993年。まだ、ブラジルでも多くの子どもたちが母子感染して生まれ、いわゆるエイズ孤児となっていった頃でした。私は数年間にわたって都市スラムで「連帯」をテーマに啓発キャンペーンを行い、HIV感染して生まれてきた子どもたちのケアに携わりました。
90年代後半にカクテル療法が広がり、またブラジルはじめ各国で感染者たちが治療薬へのアクセスを権利として勝ち取っていく中で、ブラジルではエイズは「死に至る病」から「慢性病」へと変わっていきました。母子感染して生まれてきた子どもたちも次第に自分自身が子どもを持つ年齢になりつつありますが、公的保健サービスの中でも母子感染予防のレベルは高くなり、新たな母子感染は減っています。
しかしそういった良いことが起きてきたのと同時に、社会におけるエイズへの関心が低下しているのも事実です。これはブラジルだけでなく、日本、世界中の多くの国で起きていることでしょう。
エイズは我々に多くの課題を突き付けてきました。差別、偏見、連帯、貧困、教育、性、愛、家族、そして生と死の意味。
たとえ治療法が進歩しても、エイズが我々につきつけてきたこれらの課題の重要性は変わりません。
私は現在ブラジルアマゾンの奥地で活動しています。エイズ関連以外の活動の方が多いですが、エイズが私に示してくれた課題はいつも心に留めながら働いています。