続けよう

 コミュニティアクション2011のテーマは《エイズとわたし 〜つながるコミュニティ〜》です。今年度の世界エイズデー国内啓発キャンペーンのテーマ《エイズとわたし 〜支えることと 守ること〜》と連動し、情報の共有を目指すメッセージでもありました。両方に共通する《エイズとわたし》というコンセプトは、今年度の国内啓発キャンペーン策定プロセスの中で、エイズの流行という現象を個人の体験にもう少し、引きつけて考えてみたいという意見が出されたことがきっかけになって生まれました。

 できるだけエイズ対策の現場にいる人たちの声が反映されるようなプロセスを経てキャンペーンのテーマを決定していこうとする試みは、エイズ対策分野のいくつかのNPO(特定非営利活動団体)/CBO(コミュニティで活動する団体)とエイズ予防財団が協力して2年前にスタートしました。今後も同じプロセスが採用されるかどうかは分りませんが、少なくともこれまでの2回の試みが国内のエイズ啓発キャンペーンの成り立ち方を変えていく転機にはなりました。コミュニティアクション2011というささやかな、しかし、今後の継続が期待されるコミュニティ主導のキャンペーンもまた、そうしたプロセスの延長線上に生み出された成果のひとつです。

 参考までに、昨年度のキャンペーンのテーマをあわせて紹介しておきましょう。より正確に表現すれば、昨年度、つまり厚生労働省主唱の2010年度世界エイズデー国内啓発キャンペーンのテーマであると同時に、コミュニティ主導のキャンペーンの中では、いまも継続している現在進行形のメッセージでもあります。

 《続けよう 〜Keep the promise, keep your life〜》

 「続けよう」というメッセージは続いています。以下はそのメッセージに関する解説です。慌ただしい年の瀬、皆さん、ご多忙なこととは思いますが、年が明け、ああ、去年は大変な年だったなあ、その分、今年はいい年になるぞ、きっと・・・と振り返る余裕ができた時にでも、お読みいただければ幸いです。

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 《続けよう 〜Keep the promise, keep your life〜》

 エイズの原因となるHIVというウイルスに感染しても仕事をやめることはないし、生活も続けられます。治療の進歩は、安心して検査を受けられる条件を整え、予防対策にも貢献しています。エイズに取り組み続けたたくさんの人がいてここまできました。社会の理解が広がり、関心を持つ人が増える。治療も予防も、そのことに支えられています。

 ・仕事も生活も続けよう
 ・抗レトロウイルス治療を続けよう
 ・エイズの流行と闘う人達を支え続けよう
 ・予防と支援のメッセージを送り続けよう
 ・ユニバーサルアクセスを目指し続けよう
 ・関心を持ち続けよう

 明日を守る。生活を守る。今こそそのメッセージを伝えたい。
 やめないこと、続けることが大切だ。

 以下、6つの「続けよう」について少し説明します。

《仕事も生活も続けよう》
 HIVに感染している人が初めて感染を知ったときに、ショックと混乱で今までの生活が続けられないと思ってしまう。思いあまって会社を辞めてしまう。そんな話をしばしば聞きます。でも、辞める必要は全くありません。仕事を含めKeep your life、今の生活を維持し、その基盤の上に治療を考えていくことが大切です。

《抗レトロウイルス治療を続けよう》
 HIV感染が分かったら、生活を維持しつつ、適切な時期に治療を開始することで、エイズの発症や発症した場合の病状の進行を抑えることが可能になります。HIVというウイルスが体内で増えることを妨げる抗レトロウイルス薬(ARV)を複数組み合わせて使う抗レトロウイルス治療(ART)を開始したら、途中で止めずに治療を続けることが大切です。

《エイズの流行と闘う人達を支え続けよう》
 厚生労働省エイズ動向委員会の報告(2009年)では、男性同性間の性感染がHIV新規感染者報告のほぼ7割、エイズ患者報告のほぼ5割を占めています。大都市圏のゲイコミュニティで予防や検査を呼びかけてきた成果の反映ではありますが、同時に国内のHIV感染が少なくともこの10年、ゲイコミュニティを中心に広がってきたことを示唆するデータでもあります。感染の現状に対応し、予防対策は男性同性間の性感染に焦点を当てる必要があります。ただし、その努力はゲイコミュニティだけで完結するものではありません。エイズの流行に大きな影響を受けているコミュニティを取り巻く人と社会が広くその努力の必要性を理解し、支援することがエイズとの困難な闘いを継続する大きな力になります。

《予防と支援のメッセージを送り続けよう》
 エイズの流行が世界に広がり始めてから既に約30年が経過しています。何度も同じメッセージを繰り返されたのでは、さすがに心には届きません。送り手も疲れてきます。HIVはそうした厭戦ムードを糧に広がるウイルスでもあります。縁あってエイズ対策に関心を持った人達が疲れ切ってしまわないよう、予防、治療や支援のメッセ−ジを楽しく送り続けられる工夫と励ましも大切です。

《ユニバーサルアクセスを目指し続けよう》
 HIV/エイズに関する予防、治療、ケアや支援を必要とする人が、誰でもその必要なサービスを利用できる。それがユニバーサルアクセスです。日本を含む世界中の国が2010年12月末までにユニバーサルアクセスを達成することを約束しています。その約束は果たせそうにありませんが、実現に向けた努力は約束期限が過ぎても続ける必要があります。それがKeep the promise、約束を守ることです。

《関心を持ち続けよう》
 以上のすべてのことは、エイズ対策への社会的な理解が広がり、関心を持つ人が増えることで初めて可能になります。感染症に対する関心はその時々の社会の出来事や雰囲気によって変化しますが、HIVは社会の雰囲気や一時的な対策の盛り上がりで流行が拡大したり、終息したりするタイプのウイルスではありません。対策もまた息長く続ける必要があります。HIV陽性者は既に会社、学校、病院、近所の商店街や同じ団地や……といった様々な場所で生活しています。もう既に社会の中で一緒に生きている。そのことを理解できる機会が増えれば、HIV/エイズは他人事ではないといったメッセージも、異なる意味を持って伝わってくるかもしれません。