「激動の国際保健政策」をテーマに武見氏が講演 第1回国際保健リーダーシップセミナー報告

 外務省NGO研究会による「国際保健NGO リーダーシップセミナー」の第1回「「激動の国際保健政策 本当に必要なことは何か」が11月2日午後、東京・千代田区の全国町村会館で開かれ、東海大学の武見敬三教授(日本国際交流センターシニアフェロー)が講演しました。著名な国際政治学者であり、前参院議員でもある武見氏は、国際社会の中で日本が今後、進むべき道として、比較優位分野である保健医療での貢献を重視する必要があると強調しました。

 武見氏はまず、21世紀に入ってからの日本の国際的な立場の変化について言及し、《アジアにおける雁行型経済成長を牽引する経済大国》から《先導的成熟国家》へとその役割が移行しているとの認識を示しました。また、21世紀の世界では、国境を超えた課題を解決する能力を有する国や社会が力を持つことになるとして、その意味での日本の比較優位分野が保健医療であることを指摘しています。

 世界保健機関(WHO)は2005年の総会で、《 1 すべての人々が 2 受け入れ可能なコストで 3 適切な医療サービスに 4 アクセスできること》というUniversal Coverageに関する決議を採択しています。日本は2011年に国民皆保険制度成立50周年を迎え、すでにUniversal Coverageにほぼ近い状態を実現した希有な国であり、アジア諸国の共通課題である人口の高齢化や社会的格差の拡大に対しても先行的な経験から大きな教訓を政策論として組み立てていくことができる立場にあるからです。今年9月には国際的な医学専門誌ランセットがこうした点に着目して日本を特集しています(ランセット特集にも中心的な役割を担って関与した武見氏は、わが国の小児死亡率や平均寿命の推移、疾病構造の変化、人間の安全保障概念の確立と普及における貢献などを取り上げ、比較優位の背景を詳細に説明しましたが、ここでは長くなるので省略します)。

 日本の社会保障制度は現在、大きな曲がり角にあり、医療制度改革もさまざまな難問を抱えています。改革は簡単には実現できそうもありません。もちろん、そのことは認めなければならないのですが、そうした困難に取り組むこと自体も含め、国内における改革の実行と同時に、途上国の健康作りにその経験がどこまで生かしていけるかという観点からも、日本の経験は貴重な資産になりそうです。武見氏はその点について「健康医療に関する人間の安全保障アプローチのモデルパッケージを提示できるのではないか」と述べています。

 また、国際保健分野では、途上国の保健基盤強化という水平方向のアプローチと、エイズ、結核、マラリアなどの個別の疾病に対応する垂直的なアプローチのどちらを優先させるかという議論が21世紀の最初の10年間にしばしばなされてきました。個別の疾病への対応は必要ではあるが、保健基盤が整っていなければ結局はその個別疾病に対応する医療も必要な人に届かなくなってしまうといった事情があるからです。これは私のようにエイズ対策を長く取材してきた記者からすると、やや切ない論争ではあるのですが、本来、対立するものと考えるべきではないように思います。武見氏もこの点については「保健システム強化をバーティカル(垂直的)な疾病別アプローチとどのように組み合わせていくか」「疾病別アプローチに加え、保健基盤をいかに強化させていくか」といったかたちで何度か言及していました。いわゆる神学的論争とは一線を画し、現場のニーズに沿って柔軟に対応することで相乗効果を高めていこうとする発言の趣旨には、その意味で大いに勇気づけられたことも最後に付け加えておきます。(宮田一雄)

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 「国際保健NGOリーダーシップセミナー」は外務省の「NGO活動環境整備支援事業」のひとつとして、外務省NGO研究会が2011年11月から2012年2月までの間に5回、開催することになっています。保健分野のように人々の生命に直接かかわり、なおかつ現場レベルにおける個別の事情を踏まえながらきめ細かな支援を提供することが必要な分野では、政府とNGOの連携と協力が不可欠です。NGOの能力を高め、官民の連携と協力をより実りあるものにしていくために実施される連続セミナーですね。第2回以降の予定はNGO研究会事務局であるアフリカ日本協議会のウエブサイトをご覧ください。
 http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/seminar-event/20111102.html