「同性愛嫌悪と懲罰的法律がHIV対策と人権を脅かし続けている」UNAIDSが報告

 同性愛者を差別したり、犯罪者として取り締まったりすることが有効なHIV/エイズ対策の実現を阻んでいるということは、これまでにもしばしば指摘されてきました。その具体的な事例の紹介も含め、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が「同性愛嫌悪と懲罰的法律が依然、 HIV対策と人権を脅かし続けている」(Homophobia and punitive laws continue to threaten HIV responses and human rights)という特集記事を公式サイトに掲載しています。
 エイズ&ソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログ( http://asajp.at.webry.info/ )に日本語仮訳が載っているので詳しくはそちらをご覧いただくとして、ここでは《レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インター セックス(LGBTI)の個人に対する懲罰的な法律や慣行によって効果的なHIV対策が妨害を受けている》という事例をいくつか紹介しておきましょう。

・ジンバブエでは今年8月11日、ゲイとレズビアン・ジンバブエ(GALZ)がLGBT個人に対する人権侵害の記録を発刊したところ、メンバー44人が逮捕され、後に釈放されています。

・米国、カナダ、ヨーロッパ、オーストラリアでは、同性愛嫌悪に基づく深刻ないじめ事例が学校内で多数、発生していること、そしてそのいじめの被害者に対する学校側の支援が欠如していることを指摘する研究報告が出されています。

・ロシアのいくつかの都市は最近、性的指向と性自認に関する情報を公にすることを禁止する法律が成立しました。UNAIDSはこうした法律に対し、LGBTの人たちの集会や言論の自由を制限することで、彼らを支える組織の支援活動を困難にし、同性愛嫌悪に基づくいじめや暴力を正当化するために使われるだろうと懸念を表明しています。

・セネガルでは2008年にLGBT個人に対する刑事訴追と嫌がらせがあったことから性的少数者の間に「恐怖と隠蔽の雰囲気」が広がり、MSM(男性と性行為をする男性)の保健医療サービス利用が大幅に減りました。一方で、自らの安全を守れないことへの恐怖感から、MSMと協力してHIV予防に取り組む仕事を中断する保健医療従事者もいます。

・チリでは今年3月、24歳の男性同性愛者であるダニエル・ザムディオさんが、残虐な暴行を受けて殺される事件がありました。この事件はチリ国内で、LGBTの人々に対するものも含めたヘイトクライム(憎悪に基づく犯罪)を罰するための反差別法の成立を大きく後押しすることになりました。

 国連人権高等弁務官は今年3月、性的指向や性自認に基づいた差別的な法律や慣行、およびLGBTの人たちに対する暴力行為を記録した報告書を第19回国連人権理事会に提出しました。報告書は《全加盟国に対し、合意に基づく同性間の性関係を犯罪として扱うことをやめ、個人の表現、結社の自由をまもり、安全で差別がないかたちで平和的な集会を開くことができるようにすることを求めている》ということです。