http://www.jatahq.org/topics/topics.cgi#271
HIV/エイズと結核は、マラリアとともに世界の三大感染症とされています。アフリカやアジアの途上国には、エイズにも結核にもかかっているという人も数多くいます。どのように治療を提供していくのかという課題は、同時にHIV/エイズと結核の二重の流行にどう対処していくのか、予防対策はどのように進めていくことができるのかというもうひとつの課題にも直結するものです。途上国だけでなく、日本でもそれは見過ごしにできる問題ではないと考えるべきでしょう。
結核予防週間に先立ち、9月20日には厚生労働省で結核予防会結核研究所長の石川信克所長らが日本および世界の結核対策の現状について記者会見を行いました。コミュニティアクション2012実行委員会の委員でもある産経新聞の宮田一雄編集委員がその会見について23日付のブログで取り上げているので、少し長くなりますが、以下にその会見報告を再掲します。
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明日(24日)から結核予防週間
http://miyatak.iza.ne.jp/blog/entry/2871168/
結核予防週間が9月24日(月)から始まるのに先立ち、公益財団法人結核予防会結核研究所の石川信克所長、森亨名誉所長らが20日午後、厚生労働省で記者会見を行いました。日本はいまなお、年間の新規結核患者登録数2万人を超える結核の中まん延国であり、早期の治療によって患者の重症化を防ぐこと、そしてその治療普及の努力を通して感染の拡大を防ぐ地道な努力を続け、対策への理解を広げていくことが必要だということです。
エイズ対策関係者にしてみれば、どこかで聞いたことがあるような話ですね。私はエイズ予防財団の理事やAIDS & Society研究会議の事務局長もお引き受けしているといった事情もあり、とりわけそんな印象を受けました。
国際的にみれば、結核はエイズ、マラリアとともに世界の三大感染症であり、地道で息の長い対策の必要性が繰り返し指摘されてきました。それでもなかなか克服できないのが、パンデミックのレベルに広がってしまった感染症の流行の厳しいところでもあります。また、たとえばアフリカやアジアの途上国の多くで、HIVと結核の二重の流行への対応が非常に大きな対策の課題となっています。日本でもそれはもちろん、無視していい課題ではありません。
ということで、会見を聞きながら、エイズ対策に取り組むうえでも結核対策との連携が大切であることを再認識し、同時に個人的にはエイズの取材を長く続けてきたわりに結核については何も知らないなと(あまり自慢できる話ではないので、こっそりと)反省もしました。理解不足ではあると思いますが、石川所長から説明があった国内の結核の流行について報告しておきましょう。
2011年の新規結核患者数は2万2681人で、患者の数は年々、少しずつ減ってきている。ただし、減少率は鈍ってきているということです。データが1年前のものになりますが、年間の死者数は2010年の場合、2129人でした。
わが国ではかつて、結核は「国民病」と呼ばれ、戦後間もない時には年間死者数が10万人を超えていました。現在は治療をきちんとすればなおるのですが、それでも年間2000人を超える人がその治療可能な病気で亡くなっています。咳が長引くといった症状があれば、お医者さんに診てもらってほしいということで、石川先生は「長引く咳は赤信号」とおっしゃっていました。
結核予防会の《結核の常識2012》というパンフレットの《結核はどう感染するの?》というページにはこう書かれています。
《結核とは、結核菌によって主に肺に炎症が起こる病気です。重症の結核患者の咳などで結核菌が飛び散り、周りの人がそれを直接吸い込むことで感染します。ただし、結核に感染しても必ず発病するわけではなく、通常は免疫力により結核菌の増殖を押さえ込みます。免疫力での結核菌の増殖を抑えきれなくなると発病します》
つまり、結核菌に感染はしていても発病していない人もたくさんいます。免疫の力で抑え込んで一生発病しない人も多いということです。戦後間もない時代には結核菌に感染する機会は現在と比較にならないくらい多かったので、お年寄りの中には、若い頃に感染したのだけれど気が付いていない人もその分多いということになります。一生発病しないのであれば、気が付いていなくても問題はないということになるでしょう。ただし、高齢になって免疫の力が衰えてくれば、そうした既感染者の発病のリスクも高まってきます。
その発病のひとつの目安が2週間以上、咳が続くということで、それが結核によるものであるのか、そうでないのかは、医師の診断を受けて判断してもらうということになります。これは、どうも咳が長引いているなと思っている人、ないしはこれからそういう状態になるかもしれない人(つまり、だれでもということになりますが)に対するメッセージですね。その一方で、診察にあたる医療従事者にも、どのような症状ないしは状態の人を診察したときには、「結核かもしれない」と疑ってみる必要があるのかということを日頃から勉強していただくということも対策としては重要です。
それでは結核にかかったらどうなるのかというと、治療で治りますということです。4種類の薬を2カ月間、毎日服用し、さらにその後の2〜4カ月は薬を2種類に減らして、やはり毎日服用する。薬を渡しっぱなしだと飲み忘れてしまうこともあるので、そうならないようDOTS(直接服薬確認療法)という手法が編み出されています。患者が服薬するところを医療従事者が目の前で確認し、服薬継続を支援するという手法です。これができれば菌を殺すことができる。しかし、6カ月の服薬継続ができず、途中でもう元気になったからと薬を飲むのを止めてしまうようなことがあると、再発のリスクがあるだけでなく、治療薬の効かない結核菌が登場する原因にもなってしまいます。
・・・といったことを一応、頭に入れた上で、以下は《現代の結核の特徴》です。
・結核患者は都市部で集中している。
結核罹患率(人口10万人あたりの罹患者数)は大阪市41.5、名古屋市28.1、東京特別区25.6、神戸市24.6。大阪市は最も罹患率が低い長野県10.1の4.1倍も罹患率が高くなっています。大都市では若い人、社会・経済的に弱い立場の人の患者発生が目立っている。ネットカフェ、ゲームセンター、カラオケ、パチンコなど知らない人同士が集まる場所での感染報告は気になるところです。
・高齢化が進む。
高齢になると免疫の力が低下してくる。戦後の間もない時期に子供だったり、生まれたりした人が高齢者になるので、感染に気付いていなかった既感染者が発病するケースもそれだけ多くなります。結核の他にも病気を抱えている人の場合、診断や治療が困難になることもあります。
・医療従事者の感染が増加傾向にある。
2011年の医療従事者数の新規結核患者数は673人でした。
・外国人の結核は増加傾向。
2011年の外国籍の結核患者は921人で全患者に占める割合は4.1%でした。
医療従事者や外国人の発生動向の把握は、感染がどこで起きているのか、どうして起きているのかを踏まえて、適切な対策を具体化させていくうえで重要です。ただし、メッセージの発し方や受け止め方によっては、医療従事者や外国人に対する差別的な対応を助長するようなことにもなりかねません。このあたりは病気と最もよく闘う立場にあるのはその病気にかかっている人であり、そうした人たちを支援することがなければ、有効な予防対策は成り立たないといたことへの想像力を失わないようにしたいですね。次の集団感染事例に対しては、マスメディアが取り上げる機会も多くなるので、とりわけこの点が重要になってくるのではないかと思います。
・集団感染事例が引き続き発生している。
1人の患者から数十人に感染する場合には、集団感染事例となります。結核患者の報告数は全体として減少傾向にあるものの、集団感染事例はなくなっていません。いろいろな要因があるのですが、結核という病気が忘れられがちになり、医療機関での受診の遅れ、診断の遅れがあると、集団感染につながるリスクは高まっていきます。そうした事例を減らす努力が必要です。同時に感染した人は治療をきちんと受けることによって健康を回復し、社会生活を続けていけるということを理解し、予防対策の上でも根拠のない・・・というよりも負の影響をもたらす差別や偏見をなくしていくことも大切です。
対策の方法も治療も進んでいます。したがって、関心を持続させ、じっくり取り組むことが大切です。石川所長もこの点は強調されていました。ますます、エイズ対策と共通の課題、共通の認識が結核対策にもあるんだなあと感じますね。もちろん、感染経路の違いなどから、対応が異なる面も多々あります。何もかも同じにというわけにはいかない。だが、そうであるからこそ、相違点を認識したうえで、日本国内における対策の相乗効果といったものをもう少し探っていく必要がありそうです。
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