3月臨時増刊号のpdf版はこちらをご覧下さい。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/kansen/aids/newsletter.files/NL_No.155.pdf
最初の要約部分を紹介しておきましょう。
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1 新たに報告されたHIV感染者・AIDS患者を合わせた数は512件で、過去3位の報告数となった。
2 報告数の概要として、主に以下のことがあげられる。
・日本国籍が90.6%を占める。
・男性が96.9%%を占める。
・同性間性的接触が72.9%を占める。
・日本国籍男性及び同性間性的接触は3年連続増加している。
・HIV感染者は20〜30歳代に多く、AIDS患者は30〜40歳代が多い。
特に、HIV感染者の20歳代は148件で、前年より45件増加し、過去最高となった。
3 HIV検査件数は27,531件で、前年に比べると約5%増加した。
★都民には、HIV/AIDSの早期発見・早期治療に結びつくよう、HIV検査を積極的に利用していただきたい。
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20代の新規感染報告が前年比でほぼ4割増というのは気になります。ただし、漠然と「若い人の感染が増えているね、なんとかしなきゃあ」というだけでなく、じゃあ、その20代の中でもどの層に感染が集中しているのかを把握することも予防対策を進める上では重要になります。
20代の中での感染経路別内訳などは公表されていませんが、東京都によると、上記要約部分で示されている全年齢層の内訳(男性が9割以上、同性間の性感染が7割以上)という傾向は20代も変わらないということです。
つまり、報告ベースではありますが、20代のHIV感染報告の増加は、個別施策層であるMSM(男性と性行為をする男性)の若年層の感染の拡大傾向が反映されているのではないかとみておく必要があります。
これは新宿二丁目のコミュニティセンターaktaなどでHIV感染の予防啓発活動に取り組む人たちの現場感覚にも符合する傾向ではないでしょうか。
aktaは昨年、『コミュニティセンターaktaを存続し、同センターを中心とした男性同性間の性的接触によるHIV予防の啓発普及を継続することを求める』ための署名活動を行い、その署名を今年3月27日(つい先日ですね)に厚生労働省に提出しました。
2006年から5年間の戦略研究以来、aktaを中心にした首都圏のMSMへの予防啓発活動は高い成果を示してきました。東京では男性同性間のHIV感染報告の増加傾向に歯止めをかけ、横ばいから減少に転じる傾向もみられたほどです。
ただし、資金的な面から平成28年度以降のセンターの存続が危ぶまれています。aktaを初めとする全国6カ所のコミュニティセンターは、基本的に厚労省のエイズ対策予算で支えられてきたのですが、その予算が確保されるかどうか。来年度以降、少々心許ない状態であり、aktaがやむにやまれぬ思いで署名活動を行ったのも、そのためです。
図式的に言えば、エイズ対策に関する社会的関心の低下→行政のエイズ対策予算確保に対するインセンティブの減少→コミュニティ活動へのしわ寄せ・・・といった感じでしょうか。せっかく成果が上がっているプログラムすらばっさり切り捨てられてしまう懸念もなしとしない状況です。厚労省や各自治体のエイズ対策担当者の士気は必ずしも低いわけではないのですが、わが国のエイズ対策はいまそんな危機感をついつい抱きたくなるような事態に追い込まれつつあります。
そもそも予防対策というものは、成功していると、かえってその重要性が社会的に認識されにくくなるという「成功パラドックス」を抱えています。結果として、成功を収めれば納めるだけ、存続が困難になる。そんなパラドックスを打破するにはどうすればいいのか。
「解決策は失敗すること」というような二重のパラドックスはもちろん、現場のだれも望んでいないはずです。感染報告から新たな動向をいち早く察知し、必要な手を打っていく。その想像力がパラドックスの克服には必要です。