『HIV検査サービス(HTS) 5つのC』

 世界保健機関(WHO)は昨年、『HIV治療と感染予防における抗レトロウイルス薬使用に関するWHO総合指針』の改訂版で、エイズの原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染していることが分かっている人にはすべて、抗レトロウイルス治療が直ちに受けられるようにすべきであるという勧告を出しています。
 これを受けて今年は日本国内でも、HIV検査普及のための医療機関におけるOPT-OUT方式(医療機関を訪れた人は積極的に検査を拒否する意思表示を行わない限り、同意したものと見なして検査を行う方式)の採用の是非が議論されることが予想されます。

 抗レトロウイルス治療には高い延命効果があり、なおかつ他の人への感染予防効果も期待できることが確認された。それでも検査を受けて感染を確認することができなければ、そうした治療法の進歩の恩恵を受けることはできない。検査の普及を積極的に進め、治療開始を選択する機会を提供しようとしないことは、患者の治療を受ける権利を奪うものではないか。

 最近はこうした主張もかなり説得力をもって語られている印象がありますが、これまで基本とされてきた「自発的な検査と相談」(VCT)の考え方とは対立する側面もありそうです。

 「エイズと社会ウェブ版」というかなり長期のブログ連載では今年1月8日付の第212回「HIV検査サービス(HTS) 5つのC」で、国連合同エイズ計画(UNAIDS)の用語ガイドライン2015年改訂版から、検査に関する考え方の項を紹介しています。今後の議論の参考になるかもしれないので、エイズと社会ウェブ版第212回を以下に再掲します。

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『HIV検査サービス(HTS) 5つのC エイズと社会ウェブ版212』
 http://miyatak.hatenablog.com/entry/2016/01/08/210038

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の公式サイトに用語ガイドライン2015年改訂版が昨年秋、PDF版で公開されました。序文の冒頭にはこう書かれています。

http://www.unaids.org/en/resources/documents/2015/2015_terminology_guidelines

Language shapes beliefs and may influence behaviours. Considered use of appropriate language has the power to strengthen the global response to the AIDS epidemic.

《言葉は思考をかたちづくり、行動にも影響を及ぼすかもしれません。よく考えて適切な言葉を選ぶことが、世界的なエイズの流行に対応する力になってきました》

 どのような用語が適切なのか(あるいは適切でないのか)に関する判断は、文脈によっても変わるし、研究の成果やHIV/エイズの流行に対する社会の受け止め方によって変化することもあります。

 したがって、このガイドラインもあくまで《UNAIDSスタッフおよび共同スポンサーである国連11機関、HIV対応にあたる他のパートナー機関で働く人たち》に向けて、文書などを書く際にはこういう点を考慮して言葉を選びましょうといったアドバイス的な性格のようです。少なくとも、まなじりを決し、この用語集に従わなければ許さないぞと言っているわけではありません。

 そもそも日本語の場合、こういう言い方は避けて、こっちの方がいいよと指摘されている用語に関しても、実は訳してみたら「なんだ、同じじゃないの」といったケースもあるので、参考意見程度に受け止めておく必要があります。

 ただし、それでもHIV/エイズの流行にどう対応するかを考えるうえで、なるほどと思える記述はたくさんあり、訳しておく価値はあるかなあ・・・と思ってしまったのが運の尽き。分量が多いので翻訳にも果てしなく時間がかかってしまい、まだ、途中経過です。いずれ忘れた頃にまとめて紹介できると思いますが、もったいぶっているようで申し訳ありません。今回はその中から《HIV testing services(HTS)HIV検査サービス(HTS)》の項だけ・・・。

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HIV testing services(HTS)HIV検査サービス(HTS)

 HIV検査はHIV治療とケアの入口であり、男性の割礼手術や子供の新規感染の排除、抗レトロウイルス治療の予防活用(曝露前感染予防、曝露後感染予防を含む)などHIV予防へのユニバーサルアクセスの拡大にとっても重要である。

 HIV検査サービス(HTS)という用語は、HIV検査とあわせて提供すべきサービスのすべてを含んでいる。HIV検査は以下の5つのCの枠組みにおいて実施すべきである:同意(consent)、秘密保持(confidentiality)、カウンセリング(counselling)、正確な検査結果(correct test results)、予防・ケア・治療への接続(connection/linkage to prevention, care and treatment)。

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 原則論で恐縮ですが、「5つのC」がHIV検査の基本という考え方には注目しておきたいですね。2015年の段階でもなお、つまり、検査でHIV感染が判明した人はすべて、直ちに治療を開始すべきであるという勧告を世界保健機関(WHO)が発表し、UNAIDSも2020年までに90-90-90を達成することを目標として掲げているその2015年の段階でもなお、「5つのC」が世界共通の基本です。

 世界共通ということは、日本も・・・ということだと私などは思うのですが、こういうときに、あれはUNAIDSの見解であって、WHOとは違うからみたいなことを言い出す人もお医者さんや官僚、あるいはそのOBといった人の中にはいるんでしょうね・・・おっと、憎まれ口は慎もう。

 次のエイズ予防指針改定に向けて、国内でもおそらく、今年あたりからOPT-OUT検査やPrEPについての議論が活発化しそうですが、その際にも、何が何でも導入とか、何が何でもダメとかいった議論のぶつかり合いではなく、5つのCに照らして、何が可能で、何を避けるべきかを話していく必要がありそうです。しつこいようですが、5つのCを改めて確認しておきましょう。

・同意(consent)

・秘密保持(confidentiality)

・カウンセリング(counselling)

・正確な検査結果(correct test results)

・予防・ケア・治療への接続(connection/linkage to prevention, care and treatment)

 あくまで私の仮訳なので、もっと適切な訳語があったらお教えください。