大病院に流れた歌 東京エイズウィークス・ゲイメンズコーラス報告

 たくさんの人のさまざまな人生が行き交う駅やホテルはしばしば、小説や映画の舞台になります。見知らぬ人が出会う。でもまた、すれ違うようにして離れていく。たいがいはその出会いも忘れられていくものなのだけれど、そうはならない邂逅もまたある。
 大病院もきっと、そうした出会いが成立しうる場の一つであるに違いない。東京にも寒波が襲った12月10日(土)午後4時から、新宿区戸山の国立国際病院医療研究センターで開かれたゲイメンズコーラスのミニコンサートは改めてそんなことを感じさせるイベントだった。
 コンサートの冒頭、ステージであいさつに立った同センターのエイズ治療・研究開発センター長、岡慎一博士は「世界エイズデーの12月1日からは大分、日にちがたっていますが、東京エイズウィークスということですので」と語っていた。
 エイズデーを中心にした前後数週間の様々なイベントを「エイズウィークス」として結びつけ、HIV予防、治療、ケア、支援への理解を呼びかける動きに求心力を生み出す。そんなウィークスが東京でスタートしたのは岡氏が会長だった昨年の第29回日本エイズ学会学術集会・総会がきっかけだった。
 ミニコンサートは昨年、その東京エイズウィークスの主要行事の一つとして、同じ会場で開かれ、今年もセンターの協力を得て同じ会場で第2回が開催された。
 わが国ではHIV新規感染報告の多くが同性間の性感染で占められており、ゲイコミュニティはエイズに最も大きな影響を受けているコミュニティということができる。一方、医療機関はもちろんエイズおよびHIV感染症の治療にあたる最前線の現場でもある。
 いわばHIVコミュニティという大きな枠組みの中で、この二つの、密接に関係がありながら、必ずしも同じ方向を向いているわけでもない人びとの間の協力で、同性愛者でもなければ医療関係者でもない人びとも含め様々なバックグラウンドを持つ人たちが集まる。
 しかも、「エイズ」というキーワードのもとで「たいがいはその出会いも忘れられていくものなのだけれど、そうはならない邂逅もまたある」といった場が、束の間ではあれ、より自覚的に成立する。その場にいた人たちの、おそらくはひとりひとりに、その束の間の時の記憶が残る。
 考えて見ればこれは、素晴らしいことではないか。東京エイズウィークスの公式Facebookの2016年12月11日(日)付、つまりコンサート翌日の報告によると、合唱団の出演者は36人で、コンサートを聴きにきた来場者は200人を超えたという。
 https://www.facebook.com/TokyoAIDSweeks/?hc_ref=NEWSFEED&fref=nf
 当日の会場の様子については、《Remember(おぼえていよう)〜ゲイメンズコーラス観賞記》というこちらのブログ報告も参考になると思うので紹介しておこう。
   http://miyatak.hatenablog.com/entry/2016/12/11/113039
 『そして中島みゆきさんの「誕生」は、生まれた時にWelcome(生まれてくれてありがとう)と言われたこと、出会ったこと、一緒に生きてきたことをRemember(おぼえていよう)と歌っています。「Remember」のリフレインにはとりわけ力がこもり、たぶんステージ上の皆さんのひとりひとりの思いが込められていたのではないか』