2019年度世界エイズデー国内啓発キャンペーンのテーマについて

 12月1日の世界エイズデーを中心にした国内キャンペーンのテーマは3年連続で『UPDATE!』がキーワードです。
 2017年度は『UPDATE! エイズのイメージを変えよう』、2018年度は『UPDATE! エイズ治療のこと HIV検査のこと』でした。
 HIV/エイズ対策に取り組むNPOや自治体の担当者から、複数年にわたるメッセージがあると伝えやすいとの意見が多く寄せられたことを踏まえ、あえて共通のキーワードを採用し、イメージ→知識→行動へとメッセージが展開していく工夫をしています。

 わが国のHIV感染動向を振り返ると、エイズ動向委員会への新規HIV感染者・エイズ患者報告はこの10年余り、年間の報告数が1500件前後で推移し、横ばいの状態を維持してきました。数字だけ見ると、この1、2年は微減の兆しもうかがえます。
 ただし、減少傾向が明確になったとまでは言い切れません。
 短期的な成果が社会的な関心の低下を招けば、それ自体が流行の再燃を促す拡大要因であることも認識しておく必要があります。
 これまでの成果を支えてきた努力や考え方を「もういいだろう」と軽視するようなことがあれば、そのリスクはますます大きくなっていくでしょう。

 冒頭でもお伝えしたように、『UPDATE!』の1年目はイメージ、2年目は知識と情報に焦点をあててきました。
 3年目は行動です。治療の進歩を踏まえ、HIVに感染している人も、していない人も社会の中でともに生活しているという現実の可視化により、HIV陽性者への支援と理解を新規感染の減少につなげる努力が必要になります。
 今年は「社会的な無関心」として指摘されることが多いHIV/エイズの流行と社会の間の「距離感」を縮めるために、すぐとなりにある話題として「話す」という行動に注目しました。
 ただし、可視化はHIV陽性者にカミングアウトを強要するものではありません。誤解を恐れずに言えば、感染の高いリスクにさらされている人に検査を強要するものでもありません。
 HIVに感染している人にも、感染していない人にも、そして感染しているかどうか心配になった人にも、「一人で孤立しているわけではありませんよ」ということを伝える。「となり」という言葉にはそうしたやわらかいメッセージが込められています。
 HIVの感染を心配する人に「とにかく検査を受けよう」と勧めても、なかなか行動に踏み切れない。このことはこれまでのHIV/エイズ対策の経験からも繰り返し指摘されてきました。HIV/エイズという現象に対し、社会の中に広がっているかもしれない距離感を一歩でいいから縮めていくこと、話題として一歩近づくことこそが、検査や治療、そして支援を受けやすい環境を生み出す重要な行動になります。